歌集を読んだことはありますか?
おそらく多くの方は読んだことがないと思います。
ですが、歌集ほど胸に刺さる本はありません。
31文字という限られた文字で表現されているため、解釈のための余白があり、じっくりと言葉と向き合うことができます。
今回はそんな歌集のなかでも、短歌の美しさが伝わるおすすめの歌集をご紹介します。
『ナイトフライト』伊波真人
新進気鋭の歌人、伊波真人さんの第一歌集です。
現代短歌と聞くと難しいイメージを持ってしまうかもしれません。
しかし、『ナイトフライト』に収められた短歌はどれも具体的なので理解しやすく、とにかく美しいです。
「日常風景を歌人が切り取るとこうなるのか!」という発見をするには最適の1冊です。
では、実際に伊波さんの短歌を鑑賞してみましょう。
濃い試し読み
帯に引用されている歌が非常に好きなのですが、その歌を含む作品は長いので、今回は泣く泣く引用を断念しました。
ですが、こちらの作品も非常に味わい深いので、じっくりと読んでみてください。
キャラメル・ユニバース
キャラメルの香りと闇にひたされて映画館とは甘美な宇宙
ふたり連ればかりのシネマに空席は六等星のごとく散らばる
終幕後スタッフロールを観ずに去るような性格だったね君は
劇場の出口を背にいく街のひかりはフィルムの色を映して
あらすじを持たない夜の幕切れに目覚まし時計の針をあわせる
この作品の個人的感想
茫漠たる宇宙にはまだまだ謎が多く、その神秘に人は心躍らされます。
上映前の映画館は、社会から断絶されたような薄暗い空間の中に、これから始まる映画への不安や期待満ちています。
宇宙と映画館はどこか似てそうで似ていないところがあるように思いますが、そこを伊波さんは見事に掬い上げ、美しく描いています。
宇宙とキャラメルの香りを結び付けているのも幻想的です。
上映前は宇宙へと思いを馳せていましたが、上映が終わると現実に戻って昔の彼女のことを思い出しているのはいかにも人間的です。
暗い映画館を出た後の「ひかり」、帰宅後の「夜の幕切れ」。
この対比も綺麗で、心地よい読後感に浸らせてくれます。
まとめ
感想がやかましくなってしまいましたが、短歌の美しさが伝わったでしょうか?
『ナイトフライト』だけでなく、他の歌集も手に取っていただけますと幸甚です。
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